鬱病キャリアに最適な仕事術は「GTD」だと思う理由

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鬱病キャリアであることをウリにしている気は特になくて、単に私という人間の構成要素の一部として公表しているのですが、たまにいただくメールの中で「私も鬱を抱えているので、仕事が上手く行かない。どう仕事をこなしているのか?」とか「仕事中、急に落ち込んだらどう対処しているか?」などの質問をいただくことがあります。私は医者やカウンセラーではありませんから安易な返信をしないようにさせていただいていますが、このところこういったお問い合わせを頂くことが増えてきました。何かの参考になるかもしれないので、今もクスリを服用している鬱病キャリアの一人として、どうやってこの病気と関わりつつ、仕事をこなしているのかを紹介します。

結論から言うと、私は鬱病など精神疾患を抱えている人こそ「GTD」という仕事のやり方が一番適していると考えます。2度目の休職から、復職するにあたってやはり色々心配になりました。できなくなってしまったことも沢山あるし、仕事に復帰したところで、会社に、社会に貢献できるか、社会の中で自分が立脚できるかどうかものすごく不安でした。そこで、今まではあまり意識しなかった所謂仕事術系の本を乱読して、何か今の自分でもできそうな仕事術、自分の不安を取り払ってくれる魔法の仕事術は無いのか、懸命に探しましたが、まあ、そんな魔法のやり方はありませんよね(^^;)

しかし、一冊の本が私に与えたインパクトはとても大きいものでした。それが『ストレスフリーの仕事術』です。まさにストレスを抱えないで、仕事ができる方法を探していたわけですから、当然といえば当然です(GTDのシステムそのものは『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』をご一読下さい。)

何がそんなにインパクトがあったかといえば、「頭の中にあることを全て書き出せ・気になるものを全て集めろ」ということです。自分の頭はどうなってしまったのか?という不安を抱えているわけですから、一回それを全部ぶちまけてみろと言われたのは、ガツンときました。

そして言われるがまま、まっさらなノートに向かい書き始めてみました。不安に思っていること、できなくなったこと、最初出てくることは全てネガティブなものでした。「頭の中の全て」ですから、幼少期の思い出から友達の名前、付き合ってきた人との記憶、とにかく何から何まで頭に浮かんだものを丸2日寝ずに書き続けて(これ冗談抜きでホントに寝ずにやりました)ちっちゃい文字でびっしりノート2冊に、私の頭の中身の「全て」を書き出して、頭からそれを読み直してみると、時折ポツポツと「~したい」という言葉が出てきて、ページを追うごとに徐々にこういった前向きな言葉が増えているのを見つけて楽になれました。

不安ばかりではないということを見つけられた効果は計り知れないほど大きいものです。少なくとも「~したい」という言葉は、鬱で何もできない、やりたくない、やる気が起きない、死ぬことばかり考えている、かつての自分からは出てくるはずの無い言葉だからです。「少なくとも良くなってきていることは間違いない!」そう確信が持てたのです。そうして漸く物理的に気になるものを集め始めるというアクションが取れるようになりました。

GTDは仕事のやり方ですから、記憶までぶちまける必要はなくて、気にかかっている仕事を書き出せば良いわけですが、私は気分や記憶まであらゆることを全て書き出しました。多分、鬱病などを患っている人は仕事だけでなく、もういっそのこと半生記を綴るくらいの勢いで、自分自身を全て書き付ける方が良いと思います。精神の棚卸しをする効果は絶大だと実感として思います。GTDの最初のステップである「収集」だけでもこの仕事術がもたらす効果は大きいと私は思います。

そして、仕事に復帰してからは、とにかく一つ一つ丁寧にタスクを紙に書き付けてから、取り掛かるという習慣づけを行いました。「自分が何をするか、メモをしてから取り掛かる」たったこれだけのことで、気分の落ち込みに対抗できました。不思議ですが、軽く沈んだとしても「どうあれ今はこれをやっていれば間違いはないんだ」と自分を説得できるようになったとでも言いましょうか、そんな感じです。

今も「メモしてから取り掛かる」ことは続けています。もはや書かないで取り掛かるということはちょっと考えられない状態です。PCで入力するのではなく、裏紙で良いから直筆でメモをする。「●●をコピー」とかそんな「書く前にやれよ」ということも書いてからやります。走り書きのようなものでも、これが有ると無いとは大違いだからです。最初はリーガルパットに綺麗にリスト化していましたが、今はA4コピー用紙の裏紙に殴り書きのように書き付けています。終わったら上から線を書いて消すだけです。残りは次の日にやるタスクとなります。

そしてGTD実践者が何故か躓く週次レビューですが、この作業、実は私は好きなんです。何故か?少なくとも私のSomeday/Maybeリストは「欲望リスト」です。一つも前に進めることができないリストですが、「ああ、これだけ「~したい」と思えるようになったんだなぁ」と具合が良くなっていることを実感するのが楽しいからです。楽しいことだから意識せず続けられているのだろうと思います。
勿論あんまり愉快じゃない終わっていない仕事の事柄も書き出しますし、自宅でやらねばならない作業も書きます、愛犬の予防注射とか、トイレ掃除なんてのも全部です。やり方は色々だと思うのですが、私は手でノートに書き出しています。それからMacに向かい、RTMやGoogleカレンダーやEvernoteに書き写しています。二度手間だと我ながら思うのですが、何故か直接キーボードで入力していくより、私は、手で書き出したほうが、気になっていることの棚卸しがし易いからです。

あとの変わったコツとして、普通の勤め人であれば、月〜金まで実働5日あるわけですが、必ず実働4日で出来る範囲の仕事量に留めるようにしています。理由は急な仕事を振られた時の対処の為の予備時間であるとともに、具合が悪くて出社できない場合に備えてです。「最悪1日休んでも大丈夫。仕事に何ら支障は無い」と思えるだけで、精神的に楽だからです。休憩や余裕の時間を確保することは必要だと思います。

GTDが他の仕事術と違うのは「いま何をやるか」というアテンションを管理する仕事術だということです。どこまで一つの作業を細かくするかは人それぞれですが、一例として・・・10枚の書類のコピーを5部取るというタスクがあったとして、

  1. 10枚の並びが正しいか調べる
  2. コピー機の前に持って行く
  3. コピー機の「コピー」を押す
  4. 原稿をADFにセットする(裏表注意)
  5. 「片面・A4・5部」とコピー機に入力する
  6. スタートボタンを押す
  7. キチンとコピーされているか確かめる
などとするか、単に「コピーを5部」としてアクションとするかはそれぞれという意味合いです。ともかくそのタスクを終わらせるにあたり、何らかのアクションを取って、前に進めていることは間違いないわけです。私は鬱になったとき段取りが組めなくなったことが一番ショックなことだったので、上のようにコピーを取るという行為でも細かく書き出してから、とりかかるようにしていました。まどろっこしいけど、この手順で間違いないという確証を得たかったからです。

そして、小さな小さなタスクを問題なく処理できるということが積み重なって行くと自信になりました。週次レビューで今抱えている案件の量は自分でこなせる量か否かを毎週確認でき、無理なら前もって誰かに振るなり、断るなり、のアクションを取って間違いないと確信を得ることができます。「いまやっていることに確信が持てれば」間違いなく仕事は前に進められます。ですから、私は鬱病等、精神疾患を抱えている人に、最適な仕事術は「GTD」だと私は思っています。


追記:上記は月曜日に書き上げていたのですが、火曜日に急に墜落しまして、漸く水曜日の今になって盛り返してきました。今回わかったコツ。墜落したときは、何かひとつみっともなくて良いから、ジタバタしてでも、とにかく"仕上げる"ことを繰り返す。何かスグに片付きそうなタスクを見つけてやっつけていくとテンション上がる。モグラ叩きしてテンション上がるのと同じイメージ。

6 コメント:

Moyori さんのコメント...

頭の中にある気になることを全て書き出す。
本当に単純な事ですが、やってみると本当に効果がありますね。

我流ではありますが、数年前からGTD的な仕事をやり始めてから、先のこと、今考えなくて良いことで悶々と悩むことが無くなりました。

多忙な毎日を送っている全てのビジネスパーソンに知って欲しい仕事術だと思います。
(はっきりとは覚えてないですが、GTDを知ったきっかけは@mehoriさんのブログだったと思います)

PS:昨日のTLでかなり凹まれたつぶやきを見かけたのでちょっと気になってました。

Kazumoto さんのコメント...

Moyoriさん、コメントありがとうございます。

昨日からホントに一気に墜落して、一事ホントにヤバかったのですが、何とか持ち直しました。ご心配おかけしてしまい申し訳ございません。

GTDはワークフローが決まっているというところもポイントだと思っています。型があると悩む部分を減らせますからね。

多分GTDについて最初に体系だって書かれたのは@mehoriさんだと思いますよ!

しずお さんのコメント...

twitterで、あるかたがRTしていたのを見てきました。
私は双極性障害ですが、病気の本に書いてあった「認知療法」などに考え方が似てる気がしました。ほんとうは全然別物だと思いますけど…
モヤモヤ考えて良くない思考(何パターンかあるようですが)に陥るより、客観的に捉えるのがよいようですね。
私もGTDの本を読んでみようかと思います。

凹むの辛いですよね。
持ち直してよかったです(^^)
(双極性障害のうつ状態の場合は「落ちる」とか「下がる」とか表現することがあります。躁状態は「あがる」とか)

匿名 さんのコメント...

こんにちは。一週間ほど前から購読させていただいております。

先日、10年前のことがモノを見ても全く思い出せないことに驚愕と焦燥を覚え、二週間ほど前から急遽スケジュール手帳の付け方をガラッと変えてみました。スケジュール管理のあり方を考える上で、私はポストイット(付箋)を多用することにしました。とにかく少しでも気になったことは全て付箋に書き出して、処理が終わったタスクは赤ペンで「済」の字と顛末を書き込んで処理日に貼り付けます。未処理のタスクは「タスクボード」なるリフィルを作ってそこに貼ってます。

まだ運用して二週間ほどですが、仕事の上でもプライベートでも、あれもこれもやらなきゃ!というストレスはだいぶ減ったのが自覚出来てホッとしてます。「気になることを全て書き出せ」というのはホントに効果があると思います。かのカーネギーも「心の貸借対照表を作れ」的なことを書いてましたが、通ずるものがある、と感じました。

また、週5日のうち1日を空けておくというのも、タスク処理に使える!と思うとそれだけでホッとしますね。昨日はそのための日として使ったのですが、未処理のタスクボードにプレッシャーとともに溜まった付箋がほとんど片付いたので、昨日の手帳は付箋で埋まりそれだけで「どんと来い!」という気分になりました。

オススメの本、今度読んでみたいと思います。

Moyori さんのコメント...

>多分GTDについて最初に体系だって書かれたのは@mehoriさんだと思いますよ!

ずっと気になっていたのですが、探してみたら見つかりました。
@mehoriさんのこの記事を読んで「あれ、これは何か凄い事が書かれているのでは?」と感じたんですよね。

そしてGTDという言葉を知り、後はkazumotoさんと同じく「ストレスフリーの整理術」を読んで、今に至ります(笑)

「ゆっくりと動きながら高速でこなす、一流の研究者の Doing リスト」
http://lifehacking.jp/2008/03/doing-list/

Kazumoto さんのコメント...

しずおさん、elg35さん、Moyoriさん、コメントありがとうございます!!

遅くなって大変申し訳ございません。

しずおさんのおっしゃるとおり、収集のプロセスは認知療法と似ていると思います。僕の場合は検閲機能も麻痺していたのか、まぁ良く出てきたので、ずーっと書いていられましたので、ちょっと特殊だとは思います。

elg35さん、ウチのオススメの本は全く脈略ないのでご注意を(笑)最近だと『ラテに感謝』というのがオススメです。仕事する元気をもらえる良書です!

Moyoriさん、Doingリストに近いかもしれませんね。おそらく@mehoriさんはもっともっと細かくやられているんだろうと思いますけど(^^;) 私は結構アバウトなので・・・でもちょっとでも書いておくと安心感が違いますから、なんちゃってDoingリストでも作った方が効果があるのは間違いないと思います。