芸術の効用と、豊かな人生を送る秘訣

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9年ぶりに恩師を訪ねてきました。ものすごく緊張しましたが、いざお会いしてみると何も変わらず朗らかな笑顔で出迎えていただき、一気にホッとしました。

沢山のお話をさせていただきました。9年分の思いの丈をぶつけたと言っても良いかもしれません。でもそれらは前置き。先生はしばらく私の話に耳を傾けた後、「なるほど。今の君に必要なものを教えてあげないといけないねぇ」と言って、書斎から幾つかの書籍や絵画などを持ってこられました。

洋画家、南大路一に師事していた先生は南先生の直筆の絵画や何と唯一という南先生の木版画、南先生に影響を与えたパウル・クレーの小品やレゾネ、浮世絵、小村雪岱の木版画、居間に置いてある彫刻の数々を、中学校の授業と同じように、「これが裏話があってね・・・」と一品一品丁寧に、面白おかしくエピソードを話して下さいました。特に南先生の作品に関しては署名が入っていない若かりし頃のデッサンから最後の最後に描かれたものまで所有していらっしゃるので、さながら美術論の講義を受けているようでした。

「私見をまとめるとね、芸術というのはね、忙しい心からは決して生まれない。貧しい心からも生まれない。それでは人を『感動』させることはできないんだ。たとえば美しい花が目の前にあってそれに気づけるかどうか。貧しく凝り固まった心では気づけないだろう。よしんば気づいたとしてその美しさを相手に伝えることができるかどうか。美しいものを「私はこれをこう美しく感じましたよ」ということを感動を持って、熱をもって伝えられれば立派な芸術活動と言えるんじゃないかな。さて、今の君の心の有り様はどうだろう?すぐそこにある花に気づけるかな?気づけたとして伝えられるかな?」

「君は他の人にはないユニークなものを持っているのに、本当にもったいない。この寄せ木細工を「良い品ですね」と言えるだけの審美眼があるのに、そういう心があるのに、その心を十分に慈しんであげていないように思う。大変な事態、想像を絶するものを見てきたことは痛いほど良く分かった。ただ、そのことに、その心にかけてあげる”言葉”は残念ながら持ち合わせていない。でも芸術は言葉を超越することは知っているから、オリジナルの作品を見せたんだ。一つ一つ丁寧に見てご覧なさい。」

「オリジナルを、本物を、実物を見るというのはとても大切なことだよ。特に痛んだ心にはね。テレビ画面でミケランジェロを見ても、ベルニーニを見ても、レンブラントを見ても、ダ・ヴィンチを見ても、北斎を見ても、広重を見ても、儚いかな、全て一緒だ。感動は得られない。いくらハイビジョンになっても実物とモニター越しに見るものとはやっぱり何か違うんだ。実際に足を運んで、じっくりと本物を見る。そこでの経験や感動が心を癒し、強くし豊かにする。だからしばらくの間でも良いから興味を惹かれた美術展などがあったら足を運んでみなさい。もっともっと心を手入れしてあげなさい。」

そして、最後に3つ秘訣を教えていただきました。

1.結婚生活を長く保つ秘訣。
「ごめんなさいと素直に相手より先に謝る習慣を身につけること」

2.人生を豊かにするための秘訣。
「お金がない。時間がない。忙しい。面倒くさい。この4つを禁句とすること」

3.周りの人も豊かにする秘訣。
「自分の身近な人には必ず感謝を。忘れがちだけど、自分自身にも感謝を。」

勇気を出してお会いして良かったです。何より恩師の笑顔を見られたことが何より心を癒してくれた感じがします。まだまだ教わることは沢山あります。不肖の教え子ながら成長の報告も兼ねて、年に1回くらいは、ちゃんと会いに行くようにしようと思いました。

(※)リンゴの形をした寄せ木細工。聞くところによれば箱根の名工の作とのこと。どうも『日々の100』で紹介されている寄せ木細工職人さんの傑作のようです。「売り物じゃない」というのを強引に買ってきたそうです(笑)本当に素晴らしい、見事なものでした。

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