新品のモンブランを携え、上司に報告すると、にやっと笑ってお客様へ電話をし、即時同行訪問することになりました。お客様の元へ着くと、挨拶もそこそこに上司はこう言いました「いただいた宿題の答えをお持ちしました。彼なりに真剣になって探した回答です」上司に促されるまま、真新しいモンブランをお客様の前に置くと、お客様は、にっこりと実に嬉しそうな笑顔をして、「契約書を持ってきているかい?」と言い、その場でそのモンブランでサインをしてくれました。そしてこう続けました。
「うん。実に気持ちの良い買い物ができたよ。どうもありがとう。」
きっと狐につままれたような顔をしていたであろう私をじっと見据えて、お客様はこう言いました。
「仕事のクライマックスである契約の時に使われる道具は今も昔も筆記具だ。ココが疎かでは画竜点晴を欠くことになる。特に大きな仕事ではね。最後のサインをする道具はお客の背中を押してくれる良い物でないといけないんだ。このペンはとても良い選択だと思う。何処に出しても恥ずかしくないペンだ。きっと今の君には高価な買い物だったろう。けれど一所懸命に探して辿り着いた本物というのは凄くてね、自信にもなるし、いざというとき自分を支えてくれる。そして本物は手入れを怠らなければ何年でも使える。君の仕事の大事な大事なパートナーを最初に使えたことは光栄だし、本当に嬉しいよ。」
帰り道に上司にたまらず聞きました。
「何故、ボールペンだったんですか?」
「万年筆が良いと思ったか?ボールペンを出してダメと言われたんだ。その敵はボールペンで取らないとなぁ(笑)何より万年筆というのは扱いがとても難しい。若い身で持てる道具じゃない。お前の歳で持っていたらそれは逆に野暮というものだ。だからボールペンという条件にしたんだ。万年筆を持つにふさわしい歳になったら、きっと持って良いよと時が教えてくれる。」
続けて、上司はこう言いました。
「ありがたいだろう?お客様というのは。買ってくれるだけでもありがたいのに、お礼まで言ってくれて、しかも自分を成長させてくれるんだ。そのペンは大切にしなさい。仕事で困難にあたったとき、そのペンを出して、今のお客様とのやり取りをよ〜く思い出しなさい。今の場面が、やり取りが、そのペンのデビュー戦が、お前の”初心”だ。そこに立ち会えて俺も嬉しかったよ。」
以来、このモンブランは私の中では特別な筆記具です。普段使いにはしていません。「さぁここからだ!」という仕事の始まりの時、「ここぞ!」というクライマックスの時に使う特別なパートナーとして、そして仕事で迷ったとき”初心”を思い出すタイムマシーンとして、今も全力で私を支えてくれています。時はまだ万年筆を持って良いとは言いません。しかし時が良いと言ったとしてもこのモンブランは私の特別なパートナーであり続けるでしょう。
1 コメント:
素敵なお客様でしたね(^^)
上司のかたも、3日間考え抜きなさい
と言ってくれるなんて、とても素敵です。
そんな素敵な大人になれるよう、日々、
過ごしていきたいです。
それと・・・
そんなふうに目をかけてもらえるKazumotoさん
も、きっと素敵な人なんだろうなと思いました。
コメントを投稿